忍者ブログ
好きなものをつらつらと書き綴っています。 書人:蓮野 藍         三国恋戦記の孟徳に夢中。  ボカロ(心響)SSも始めました。
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

昨日更新出来なかった小説を更新します><


一応遙か3の版権ものになりますが、
出てくるヒロイン。
どう考えても望美ちゃんの性格ではないので、オリジナル主人公とさせていただきます。
ですが、名前変更機能など一切ありません^^;

名前変更しなくても大丈夫なように「あなた」とか「お前」といった呼び方となっています。
それでも構わない方と仰って下さるお優しい方。

どうぞ読んで下さい

拍手[1回]


さやさやと風にゆられ、太陽の光をあびる木を青年が見上げる。
いつもならば静かに流れる川の如く涼しげな表情を浮かべているのに、今の彼には困惑で彩られていた。
「何をやってるんだ?ヒノエ」
取りあえず、答えられそうな人物に声をかけてみる。まともな回答は得られそうにないことを覚悟して。
「何って、降りれなくなった猫を助けようとしてるだけさ」
「い、いや、そうなのだろうと、見ればわかるのだが」
その前に猫ではなく人だ。と突っ込みたくなるのは気のせいだろうか。
「だったらそれでいいじゃないか。少し黙っててくれないか?……ほら、いいこだからこっちにおいで」

冷たくあしらい、ヒノエと呼ばれた男はとても優しい口調で声で話しかける。曰わく、降りれなくなった猫に。

「む、無理……」
新緑が生い茂っている。
その中の一本の木の幹に両腕をまわしてへばりつき、声を震わせて言うのは紛れもなく、にゃーにゃー鳴く気まぐれな動物ではなく人のもの。
なぜそこに彼女がいて、しかも登っておいて降りれないのか不思議でならなかった。
「なぜ、貴女がそこに?」
今度は女性に聞いてみることにした。
だが彼女からの答えはもらえることはない。逆に地上にいる人物を見おろして「ひぃっっ」と小さな悲鳴と共にますます幹に抱き付くカを強めただけのようだった。太い枝に腰掛け、ぎゅっと瞳を閉じて白い頬を幹に押し付けている。肌に赤い筋を入れかねない行為に思わず眉を寄せる。
「敦盛……」
状況が悪化した。どうしてくれるんだと言わんばかりの冷たい視線を受け、男は我に返り素直に謝罪した。
「すまない。そのつもりはなかったのだ」
「言わなくてもわかってる」
はぁ……とため息をつくのを耳に、ビクッと少女の肩が震える。
「ご、ごめんなさい……っ!!木をみていたら昔木登りしたのを思い出して、つい……っ」
「のぼりたくなった、というわけか」
「はい……」下を見ないように、コクリと縦に動く首。
「そしてのぼったはいいものの、下をみたら怖くなっておりられなくなった。だろ?」
「その通りですっ」
木に登っておりれなくなり、しがみついている様は小さくその場にとどまっていて助けを呼ぶように鳴く子猫そのもの。
そのままの状況に気付かれないように敦盛は小さくため息をついた。
木の上にいる彼はきっと彼女を抱きかかえて降りようとしているのだろう。だが人を抱えて木の上から降りるなど、彼女にしてみたらいくつ心臓があっても足りないだろう。その前に抱き抱えるまでの時間をどれくらい要するかわからない。夕方までかかるかもしれない。

だとしたら、どうしたらいいか。


答えなど決まっている。
足を進め、木に手をかけた。そのまま足をおけそうなところに置き、するすると登っていく。あっという間に二人がいる枝の近くまで登ることが出来た。
「敦盛?」
友の行動に今度は赤毛の男が眉を寄せた。そして薄く目を開いた彼女が登ってきた男の姿を目に、驚いて目を見開かせる。
まさかくるとは思わなかったのだろう。
「ヒノエに任せるより、私に任せて自力で降りてもらった方がより安全でいい」
「何だと?」
ピクリと片眉を動かすのを見て見ぬふりをし、木の上でかたまっている女性に声をかける。
「みての通りヒノエは女性に対しては優しい。貴女に手荒な真似はしないと知っている。だが今彼がしようとしているのはおそらく、貴女を抱き上げてそのまま地上まで一跳び」
「え?」
「何言ってやがる」気分を害したのを一切隠さず、視線で命を射止めんばかりに睨んでくる相手に涼しい顔で見返した。
「違うのか」
「オレを誰だと思ってるんだ。姫君、お前を怖がらせることなんて何一つしないと約束する。だからこっちにきなよ」
口調は柔らかく、優しく。甘さを含む声を声を耳にして平素でいられる女性は少ない。
そこに静かな、だが鋭い突っ込みを入れてみる男がここにいる。
「私が此処を退かない限り、飛び降りるしか方法はないと思うが、ヒノエ」
途端、舌打ちをする音が聞こえた。それに肩を震わせる一人の女。他人への感情を自分へのもののように感じとってしまう、心優しい人なのだと感じずにいられない。同時に胸が暖かく、愛おしくなる気分になる。
「敦盛、少し黙っておけよ」
「断らせてもらう。現に今彼女を怖がらせたからな」
視線は彼女へ定めたまま。つられるようにヒノエも彼女へ目を向ける。女の細い肩が更に震えた。
「ああ御免よ、オレの衣通姫。今にも瞳から真珠の雫が零れんばかりの可憐なお前を放ってしまって。誰も責めていないから……ほら、オレに花咲いた顔を見せて欲しいな。お前には悲しげな顔より笑顔のほうが似合う」

女性の下降した気持ちを何とかしようと、彼女がいる枝のほぼ反対側に生える枝に陣取る彼が再度優しく話しかけていく。腕を伸ばして女の柔らかそうな髪を優しく梳くように撫でる。気持ちいいのか、少しこわばっていた顔が少し穏やかになる。

ヒノエのことだ。
彼女の顔に笑顔が戻ってくるのは時間の問題。
そうすればきっと彼女はどちらかの力を借りて地上に下りることが出来る。
それでいい。いいはずなのだが、何故だかそれを認めたくない自分がいるのに気付いた。
片手を幹に当て、反対側の手を何気なく見つめる。
普通の人と同じように見える手は見た目より力があり、爪は時として獣のように鋭く長くなる時がある。己の内に宿るカが暴走しそうになる時、瞳の色が紅くなってしまうことも知っている。

この身に得られる幸福など一つもない。得てもいけない。
そう考えていた。
なのに、この現状を受け入れたくないと思う己の醜い心。欲深さに呆れたくなる。
だが、
心優しい彼女ならば、業が深い自分を許してくれるだろうか。
ちらりと盗み見てみる。当の本人の顔はまだ花咲いてなかった。(相変わらず幹にはしがみついたままだが)一つ年下の男の姿を目を閉じることなく見て、彼の言葉を聞いている。心なしか女性の白い頬に赤みがかっている気がする。ヒノエの言葉ゆえに違いない。
彼女に笑顔が戻るまで、もうあまり時間がない。
意を決して、懐から愛用の笛をとり出した。そのまま両手で構えて息を吹きかける。
爽やかな空気の中に、一つの音が響き渡っていく。音がぶれないように、彼女を怯えさせないように、細心の注意を払って音に命を吹き入れる。
音は正直なもので、楽器を扱う者の感情がそのまま音として出てしまう。
だから彼女のことを想い考え、笑顔になってくれることを願いながら吹く。

どうかこの一時だけでも、
貴女を想うことを許して欲しい。


新緑の昼下がり。
風が緑の薫りを運んでくる。












終わり
さりげなくタイトルは「猫鳴き」としていたりします。
そして別バージョンも頭の中であったりするのですが、だそうか出さないか考えています。
PR
コメントを書く
お名前
タイトル
メールアドレス
URL
コメント   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
パスワード
 HOME | 376  375  374  373  372  371  370  369  368  367  366 
忍者ブログ [PR]