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好きなものをつらつらと書き綴っています。 書人:蓮野 藍         三国恋戦記の孟徳に夢中。  ボカロ(心響)SSも始めました。
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本を失い、孔明の代わりとして生きる花と孟徳の話。
要は孟徳+花孔明な話。





やはり長い。





拍手[5回]



穏やかな風を受け、玄徳軍が拠点とする地よりは明らかに段違いの賑やかさを見せる地。
そんな場所で一人の少女が店の主人に物を請うた。

「主人、肉まんを一つ」
「あいよ」

良銭を手渡して品物をもらい、白い湯気が立つそれを受け取ってその場を後にした。
火傷しないように気をつけてこの日初めての食事を口にした。
小さく刻んだ竹の子が入ってるのか、普通の肉まんと違って食感が楽しい。

昨日は閉門するギリギリの時間に町に入り、そのまま宿泊する場所を見つけるのに苦労したためそんなにお店を見る余裕はなかったが、曹孟徳を頭としたこの地は劉玄徳が率いる国とは格段に違う。
広い土地にあまたの人。
遠目からみてもわかる店店の品ぞろえの多さ。質の良さ。
人々の活気があちらこちらから見受けられる。
そして勢いがあり、三国随一というべきか。

やはり、仕事を前倒しにしてでも自ら出てきて敵地調査しに来てよかったと孔明は満足した。
例え芙蓉姫から(特定人物限定で)危ないから止めろと止められても。
主君たる玄徳様からは表上は頷いてくれたものの、もの凄く言いたそうな表情をされても。
言葉では示さないものの、同じく言いたげに見つめてきた雲長の視線には気付かないことにし。
一人では何かと危ないから、とついて行くと言ってくれた子龍には軍師の技である話術で説き伏せ。
翼徳にはお土産で手をうった。
心配してくれるのはありがたいし、嬉しくもある。
だが、それらを押し切ってきたかいがあるというもの。


人には誰しも一人になりたい時がある。
今の孔明がまさにそれだった。
猫気質といったほうが分かりやすいかもしれない。
何の束縛を受けずに、風の流れるままに流れて一日だけでいいから過ごしたい。
それをつくるべく、敵地調査と称して単独ここまで出てきたのだ。

肉まんの最後一口を大きな口を開けて食べ、ふと孔明は思った。
かつての彼の人も同じような気持ちだったのかもしれない。
弟子を連れて行ったと思いき突然いなくなって放置され、いきなり現れたと思ったらまた急にいなくなる。
しなやかな身のこなしで、それはまさに猫のごとし。
この世にはいない彼の人の性質が似てきていると思うと、心の中で孔明は苦笑いをした。
かつての師匠になろうと日々努力して似てきてるのは嬉しいけれど、似ていても正直有り難くないところだ。

「そこのお嬢さん、もしかして一人?」
「はい?」

声とともに肩をたたかれ、我に返って慌てて声がした方を振り向く。
そして孔明は石となった。

「……」
「ねえ、一人なの?他の人は?」

固まってるのを知ってか知らずか、肩に手を置いたままキョロキョロとあたりを見渡すその人。
いつもは流したままの短い髪を今は後で結われ、赤い布をふんだんに使った着物ではない素朴の服装……一般民の格好をしている。
だがその人が首を動かす度に音をたてて揺れる紅と金の耳飾りと肩に置かれた左手にある火傷の痕。
そして抜け目ない鋭い視線を隠した鳶色の瞳を持つ者は彼しかいない。
なぜ、ここにいるのだろう。
この人物は今頃執務室で色んな仕事をしているはずでは??
それこそ終わりのない、崩れない永遠の竹簡の山。
このような場所に出てこれる時間などないはずである。

孔明がどう考えても、この場の答えが見つからず一人悶々と頭の中で思考を繰り返す。


「…………」
「……孔明?」

問いの答えがなかなか得られず、視線を合わせて小さく呼ばれた名に彼女は我に返った。
これで今日二度目である。

「なぜ貴方がここにいるのです!?」
「それは俺の台詞だよ。なんで君がここにいるの?」
「私は仕事です」
「仕事?」
「はい、視察調査です」
「調査?」
鸚鵡返しをしてくる相手に一つ少女は頷いた。
「我が国をより豊かに、より過ごしやすくする為の調査です」
「へえ……なら呉にも行ったの?」
「いえ、それは後日」
つい、と細められる彼の瞳。きた、と身を引き締めた。
身なりは普通の民に見えるけれど、その中身は献帝を擁し丞相という途轍もない地位を持っている曹孟徳。
目的の為なら何でもする極悪非道というのが一般的な認識だが、由緒正しい貴族だけを登用せず実力ある者ならば誰でも登用するという実力主義者だったりする。
何か聞かれることは、何かを答えなければならない。
適当に答えをはぐらかすという手段もあるものの、この男はそれを見過ごしてはくれないだろう。
丞相という地位にありながら軍師並、或はそれ以上の話術を持つ彼の言葉に惑わされないようにしなければならない。
出来れば話題を変える。
本当はいつも手にしている羽扇を使って口元を隠したり仰いだりして余裕があるところを示してるところだが、今は目の前の男と同じように一般の民の装い。ゆえに羽扇はない。
芙蓉姫の心配が的中した事を今更ながら孔明は悔んだ。

後悔先に立たず。
後の祭り。

人はそう言うだろう。
閑話休題。

「君が?一人で?」
「他人の目より己の目で確かめた方が早いことがあるますので」
「百聞は一見にしかず、か」
「そうですね。……ところで貴方はなぜ此方にいるのです?仕事は?」
「俺も仕事してるさ。現地調査、かな」
聞きたかった答えを得られたものの、含みのある笑みで答える彼に孔明は頭痛が起きるのを知った。
「……それを貴方の王佐や従兄弟殿は知っていらっしゃるのですか?」
「まさか、あの二人に言ったら邸から出してくれないから抜け出してきた」
どうしてこの人はいとも簡単にアッサリと言ってくれるのだろう。
ズキズキと痛みを感じる頭を指で米神あたりを揉みながら訴えた。
幸い、孔明の主君たる玄徳はよく仕事の休憩と称して編み物をしていることがあるが、脱走されたことはない。
だがもし急を要する仕事を持ってきた時にいなかったらどう思うだろう。
捕まえたくてもどこにいるのかわからないから捕まえられない。どこを探してもいない。
進ませたい仕事も進まず、イラつくばかりだ。
曹孟徳と相対する劉玄徳にいる自分だが、曹孟徳のもとで働く文若が哀れに思えてくる。勿論、従兄弟の我儘な行動にいつも振り回されているだろう元譲も。
だからこの男の王佐は眉間に皺が絶えないのだ。
「貴方という人は……っ…気付いたら上司がいない部下の気持ちを考えたことがありますか?」
「いや、考えたこともない」
「でしょうね。そう言うと思いましたよ」
「……そんなに俺の脱走が嫌?」
「仕事を進めたくても進められないから、イラついて嫌でしょう」
「ならさ、俺が脱走しないように君が見張っていてよ。孔明」
「……はい?」

一回思考が止まった。
なぜそういう結論になるのだろう。

純粋に孔明は思った。

「君が玄徳の元から俺のところに来たらさ、俺のこと見張り放題じゃないか」
「……私が玄徳様の元から貴方の元へ行くとお思いになられますか?」
ハッキリ言って論外である。
三顧の礼をもって劉玄徳に仕え、これまでいくつもの策を献上している。
今までがそうだったように、これらからもこれは変わらない。
「玄徳のところから来てくれるよう、俺がこの国を見せてあげるよ」
つまり、丞相直々に町を案内してくれるということだということがこの言葉からわかった。
「貴方に見せてもらえなくても、私一人で見れますが」
「孔明、君はこの国造りに一つも関わってないだろう。それよか一番関わってる俺が案内した方が効率的にいいよ」
「……一理ありますね」
ド素人がやみくもに回るより、玄人に任せて見て回った方が確実に良い。
「決定だね。じゃあ早速、どこから見たい?肉まん食べて喉乾いてるだろうから、飲み物でも飲む?」
「っ……貴方はいつから見ていたのですか!?」
「君が肉まんの最後の欠片を大口で食べたあたり」
意外と口大きく開けられるんだね。とどこか楽しげに笑う彼を見て、孔明の顔は真っ赤になった。

見られていた。
その思いが孔明の頭の中でいっぱいになる。




「あ、貴方という人は……!!」









終わり
花孔明を急きょ書きたくなったんです。
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