好きなものをつらつらと書き綴っています。
書人:蓮野 藍
三国恋戦記の孟徳に夢中。
ボカロ(心響)SSも始めました。
この日は母国でいう仲秋の名月にあたる日で、夜は孫家の若き獅子が開く宴でにぎわっていた。
「こっちだ」
灯篭で明るくなっている道を避けるように一人の男が少女の手を引いて行く。
大股で歩く彼についていくのに大変なのだが、今日は心持ちゆったりとした歩調なのに少女は気付き嬉しくなった。
仲謀との想いが通じ、孫家にいることを決意した花は必然と今夜の宴に参加することとなった。
皆と騒ぐのは好きだが、アルコールを飲まないようにする為に大人しくしていようとしていたのだが、仲謀の「お前はここだ」との言葉に否応なく彼の隣に座ることになったのは数刻前。
程良いぐらいに酒が周りの人にまわったくらいの時、静かに杯を傾けていた仲謀が杯を置き「花、ちょっと来い」と相手だけが聞き取れるくらいの小声で言われ、豹のようなしなやかな動きをする彼についてきたのはいいものの。
仲謀や尚香達を主としたこの邸はやたらと広く、同じ敷地内といえど連れられてきた場所では宴の喧騒は聞こえてこない。
聞こえてくるのは風に吹かれて立てる木の葉が揺れる音とたまに聞こえる虫の音。
同じ敷地内だというのに、宴の場とは正反対の静かさに少女はほんの少し怖くなった。
「仲謀、どこまでいくの?」
「もう着く。……もしかして怖いのか?」
「ま、まさか」
前を歩く彼が振り向き、ニヤリと意地悪く笑う。
暗闇の中で仲謀の済んだ水面のような瞳が光り、胸が心なしか高鳴るのをあえて無視して反論してしまう。
一つ上の少女のことを男は気にすることなく、次の瞬間には不敵さが宿った笑みに。
「ここは孫呉の本拠地だ。第一この俺様がそばにいるんだから心配する必要なんて一つもないっての」
そう言って少女の手をとり、歩くことしばし。
少年は「ここだ」と足をとめ、少女に目的地を示した。
花に見せるように仲謀は身体をずらして見せるそこは一つの大きな池だった。
仲謀のもとで暮らすようになってからというもの、何回か尚香や子敬などにつれられて城内の案内をしてもらってだいたいのことは把握している。
この池にも数回来ているが、花の部屋からは程遠いため、自分から一人でここまでくる気はなかった。
太陽が登りきっている時にこの池をみた時は池の大きさに驚いたものの、それ以外は普通に花は見えた。
日が沈み今、天上にあるのは月とあまたの星々。
本来ならば花のこの世での職業である軍師の努めとして星見をするのだろうが、師匠である孔明に教えを丁寧に教わったことがなければ、同じく星見をする公瑾にも教えてもらったこともない。もっとも、後者に頼んだら「軍師なのに、そのようなことも出来ないのですか?」と冷たい視線をもらいそうだが。
つまり、花に星見をさせようとしても無理な話である。
閑話休題。
今は明るすぎない月明かりに水面が反射し、水の清らかさを現わしてるよう。
これだけでも十分魅力的で少女の視線を奪うのだが、それ以上に花の目を奪うものがあった。
「わぁ……キレイ……」
無意識のうちに零れる少女の言葉。
目を見開いてそれを凝視する相手の様子に仲謀は気を良くし、両腕を組んで胸を張る。
「どうだ、凄いだろ」
「凄いよ、仲謀。こんなに沢山の……」
少女の言葉は最後まで続かなかった。
目の前に広がる光景にのまれる。
広大な池に浮かぶ月鏡と、あちらこちらと淡く光っては消える無数の蛍。
幻想的とも呼べる光景に花はすっかり見入り、息をし忘れたように見つめるばかり。
ここに連れてきた仲謀の「此処はな」という台詞に我に返るほどだった。
「子敬に教えてもらったんだ。今はちょうど蛍の季節だから花に見せたらどうだって」
「子敬さんが……」
「俺自身、お前が喜ぶかどうか半信半疑だったんだが」
見せて正解だったと言って、満足そうな笑み。
彼の笑みが嬉しく、つられて少女も微笑んだ。
「ありがとう仲謀!子敬さんにお礼言わないとね」
「そうだな」
そう言って頷きあ、しばらく二人は静かな池に舞い踊る蛍を見入った。
二人の周りに小さな蛍がふわふわと飛ぶ。
終わり
なかなか終わらなった^^;
日本では蛍といえば初夏のイメージがありますが、調べてみたら彼の国では秋らしいです。
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