好きなものをつらつらと書き綴っています。
書人:蓮野 藍
三国恋戦記の孟徳に夢中。
ボカロ(心響)SSも始めました。
暖かな日差しなのにそれを浴びることなく、ただ執務専用の部屋の中で文机と向き合い筆を走らせる。
白い紙に走らせる筆のあとをヒノエは赤い瞳で追いかけながら思う。
もし今日この仕事がなかったなら、
もし今日この時間が自由だったなら
妻とした彼女を遠出に誘い、熊野のあちこちを案内したり
花が咲き乱れる野原を案内するのに。
源氏の神子と呼ばれた少女と同じ世界からやってきた彼女は、太陽のように明るい戦姫とは違い、大人しく控え目なところがある。
穏やかに暮らすことを好みそうな彼女が好きそうな場所に連れて行ったらどんなに喜んでくれるだろう。
滅多に見られない華やいだ笑みで「有難う」と伝えてくれるかもしれない。
もっとも、その前に二人乗りで馬で移動するわけだから、その道中で彼女の小さな腕をしがみついてくるかもしれない。
高所が苦手な気がある妻のようだから。
しかし、だからといって妻と少しでもくっつける機会を逃す気もヒノエは更々ない。
ああ、それにしても希望は希望のままで実行出来ないだなんて、なんて恨めしいんだ。
ふぅ。
一つ溜息をついた。
「頭領」
そんな時だった。
「どうした」
部屋の外で平伏しているだろう女房に振り向かないまま問うた。
「奥方より文をお持ちいたしました」
「奥方から、文?」
動かしていた筆を止めた。
彼女から文なんてもらったことがない。
今回が初めてだ。
「はい、文字の練習をしていらっしゃったので、その成果を頭領にお見せしたいのだと」
「見せてくれ」
筆をいったん置き、入室してきた女房から文を受け取った。
若葉をつけた枝に折りたたまれた白い紙が結ばれている。
丁寧に結び目を解き、折りたたまれた紙を広げた途端に微かに薫る彼女の優しい香りとともに、どこかたどたどしくも、線が細くて優しい文字がヒノエの目の前に飛び込んできた。
「……っ」
文字を目にし、赤毛の少年は他人に気づかれない程度に目を見開いて息をつめる。
書かれた文字を食い入るように見つめた。
『好』
という文字。
たった一人の伴侶は夫の理性を試しているのか、と思わず考えてしまう。
それほど衝撃が強い言葉だった。
「頭領、文の返事はいかがいたしましょう」
奥方付きの女房が返事を問うてくるが、彼の答えは決まっている。
「初めてもらった文だからね、切りがいいところまで終わらせたらオレが直に返事しに行くよ」
「かしこまりました、では奥方様にはそのように」
「頼んだ」
頭を下げ、退出した女房を見届けることなく熊野の頭領は懐に丁寧に文を入れ、文机に向かった。
文は文でも恋文と呼んでもいい彼女の気持ちがこもったそれ。
書いた本人は今頃何をしているだろうか。
恥ずかしがり屋だから、きっと後悔しているかもしれないが既に遅い。
さっさと仕事を終わらせて北の方に会いに行こう。
そして自分の気持ちを直に伝えるのだ。
心に決め、ヒノエは袖を腕まくりした。
終わり
これで終わり。
白い紙に走らせる筆のあとをヒノエは赤い瞳で追いかけながら思う。
もし今日この仕事がなかったなら、
もし今日この時間が自由だったなら
妻とした彼女を遠出に誘い、熊野のあちこちを案内したり
花が咲き乱れる野原を案内するのに。
源氏の神子と呼ばれた少女と同じ世界からやってきた彼女は、太陽のように明るい戦姫とは違い、大人しく控え目なところがある。
穏やかに暮らすことを好みそうな彼女が好きそうな場所に連れて行ったらどんなに喜んでくれるだろう。
滅多に見られない華やいだ笑みで「有難う」と伝えてくれるかもしれない。
もっとも、その前に二人乗りで馬で移動するわけだから、その道中で彼女の小さな腕をしがみついてくるかもしれない。
高所が苦手な気がある妻のようだから。
しかし、だからといって妻と少しでもくっつける機会を逃す気もヒノエは更々ない。
ああ、それにしても希望は希望のままで実行出来ないだなんて、なんて恨めしいんだ。
ふぅ。
一つ溜息をついた。
「頭領」
そんな時だった。
「どうした」
部屋の外で平伏しているだろう女房に振り向かないまま問うた。
「奥方より文をお持ちいたしました」
「奥方から、文?」
動かしていた筆を止めた。
彼女から文なんてもらったことがない。
今回が初めてだ。
「はい、文字の練習をしていらっしゃったので、その成果を頭領にお見せしたいのだと」
「見せてくれ」
筆をいったん置き、入室してきた女房から文を受け取った。
若葉をつけた枝に折りたたまれた白い紙が結ばれている。
丁寧に結び目を解き、折りたたまれた紙を広げた途端に微かに薫る彼女の優しい香りとともに、どこかたどたどしくも、線が細くて優しい文字がヒノエの目の前に飛び込んできた。
「……っ」
文字を目にし、赤毛の少年は他人に気づかれない程度に目を見開いて息をつめる。
書かれた文字を食い入るように見つめた。
『好』
という文字。
たった一人の伴侶は夫の理性を試しているのか、と思わず考えてしまう。
それほど衝撃が強い言葉だった。
「頭領、文の返事はいかがいたしましょう」
奥方付きの女房が返事を問うてくるが、彼の答えは決まっている。
「初めてもらった文だからね、切りがいいところまで終わらせたらオレが直に返事しに行くよ」
「かしこまりました、では奥方様にはそのように」
「頼んだ」
頭を下げ、退出した女房を見届けることなく熊野の頭領は懐に丁寧に文を入れ、文机に向かった。
文は文でも恋文と呼んでもいい彼女の気持ちがこもったそれ。
書いた本人は今頃何をしているだろうか。
恥ずかしがり屋だから、きっと後悔しているかもしれないが既に遅い。
さっさと仕事を終わらせて北の方に会いに行こう。
そして自分の気持ちを直に伝えるのだ。
心に決め、ヒノエは袖を腕まくりした。
終わり
これで終わり。
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