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好きなものをつらつらと書き綴っています。 書人:蓮野 藍         三国恋戦記の孟徳に夢中。  ボカロ(心響)SSも始めました。
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先日、先先日と更新したヒノエSS。
ヒノエ家族(←クリックでその記事にとべます。)

そしてその続編
ヒノエ家族 続編(←クリックでその記事にとべます。)

のその続編。
完結にあたるものです。
本当は拍手お礼小説として書いていたのですが、拍手お礼拍手としては長いものとなったので、急きょこちらに載せることにしました。

どんな話かは、どうぞお読みくださいませ。


気になる~!!
とおっしゃる神子様、どうぞ↓へお進み下さい。


2012年5月25日 修正加えました

拍手[1回]


彼女は細心の注意をはらって行動していた。
相手は2人。
先程寝入った子供と、その子供に膝枕を提供しつつ胡座をかいて寝ている夫。
そのうちの子供は大丈夫だろう。
あと残るは永遠の伴侶にと選んだ旦那様。
夫はこの地一帯のまとめ役であり、熊野の神に仕える神職である。かと思えば海賊の頭であったりして、なにかと忙しい。
忙しい仕事の合間をぬっては妻に会いにきたり、子供の遊びに付き合ってくれたりと嬉しい限りだ。
だが忙しい身だから身だからこそ、出来る限り体を休ませてあげたい。
だからこそ、寝ている今こそ彼を休ませるチャンス!!

なのだが、風邪をひかせないように衣をかけたいのに、こんなに苦労するとは思わなかった。
かつて源平の戦いで剣をふるい活躍した女性は、ため息をつきたくなった。



身のまわりを世話してくれる女房達は今この部屋にはいない。寝入ってしまった私達に気をつかって退室してくれたか、気付いたらこの部屋にいた背の君が命じたに違いない。

自分の近くで今日二回目となるお昼寝を味わっているひとリ息子には簡単に衣をかけてあげることが出来た。
幼子に抱かれた白い猫は衣をかけられ驚き、艟を見開いて拘束が緩んだ子供の腕から逃げ出る。ちょろちょろと辺り動きまわり、にぃ……となくメス猫に人指し指を口元にあてる。
「しい……!少しだけ静かにしてね?」
小声で話しかけると、相手は何?と首をかしげた。そして気まぐれに自分の毛にを舐め、毛繕いを始める。
時折、首輪の鈴がチリッ…チリッ…と鳴るが、これは仕方ない。
気を取り直し、我が背子にかける衣を再度手に握りしめた。

そして、冒頭に戻る。


呼吸の音は出来るだけひそめ、物音をたてないようににじり寄る。
人の上に立つ人物として教育を受けた彼は、気配や物音などに敏感なのだ。
前に数回、夫を驚かせようと背後から近づいていった。だが驚かせようと行動に移す前に振り向かれ、逆に驚かされたこと2~3回。「オレの花嫁は悪戯好きのようだね」と返り討ちにされたこと1~2回。

以上のことをふまえての行動。
もう失敗はしない。


決意を改めてかため、細心の注意をはらって動く。
両膝を少しずつ動かして彼に近づき、両手が男の両肩に触れられるくらいまで距離を縮める。
小さく呼吸を整え、両手を広げて衣を開く。
大輪の花が多く散りばめられ、金糸をところどころ縫いこまれた女物の袿。夫から贈られてきた品物の一つだが、この際どうでもいい。
夫に風邪をひかしてはいけない。

それを恐る恐る夫の肩にゆっくりとかける。
完全に衣が彼の肩にかかる前に、ある音が彼女の耳に届いた。

突然発生した音に、女性はドキッと心臓が止まる心地になった。
うるさく高鳴る心臓の音を必死に宥め、瞬時に音の発生源を探ろうと辺りを見渡す。
あちこち目をやり、垂れ下がる御簾や几帳、鏡。本や香炉を置く棚。文机と視線を走らせる。
そして視線が一か所に止まる。原因を見つけた途端、
部屋の主は自分の目を疑いたくなった。

そこにいるのは屋敷を支える一本の柱と、一匹の白い猫。
猫の“しろ”がしなやかに背をのばして柱に爪をひっかけ、爪を研いでいる場面。


「し、しろ……!!今はダメっ、お願いだから」


声を抑え、それでも悲痛の叫びのように言葉を走らせる。けれど、当の猫は飼い主の言葉を聞かずに爪とぎに勤しむ。爪とぎにあわせて鈴の音も混ざる。
猫的に爪とぎは必要不可欠。どうしようもないことだとわかっている。なのに、なぜよりによって今なのだろうか。
踏み荒らされていない雪のようにふわふわで純白の毛をもつ飼い猫を一瞬恨みたくなった。
今すぐにでも駆け寄って止めたいところ。だがそうしたら必然的に物音をたてることになり、家族の眠りを妨げるきっかけになりかねない。

ため息をつきたくなるのを必死にこらえ、女は夫の肩に袿を完全にかけた。
次に、伴侶の耳を両手でやんわりと塞ぐ。視線は我が子へ。幸い息子はまだ夢の中で、目を覚ます兆しが見受けられない。それどころか寝返りをうち、ウニャウニャと聞き取れない寝言を言っている。へにゃ、と口角をあげて笑っている。
熊野の次期頭領と期待される子供の夢は平和のようだ。
今の状況でなければ、我が子の愛らしさに笑みがこぼれる。麻酔薬を使わず正真正銘、お腹を痛めて産んだ愛しい人との子供。愛しくないわけがない。
ずっと子供の寝顔をみていたいと思う気持ちをごまかし、夫の耳を塞ぐ両手を離さないように気をつける。
相変わらず白猫は柱を使って爪とぎをしていた。あとどれくらい待ったら終わるだろう。
出来る限り早く終わらせて欲しい。じっと夫の耳に栓をしたまま猫を見つめた。


それからあまり時間が経ってない時に、猫が動いた。
とぎたての爪を舐めているのか、手に舌をはわせる。
気が済んでひょこひょこと部屋の中で日当たりのいい場所へ移動したかと思うと、その場で丸くなった。目を瞑り、こっちもお昼寝らしい。一見、真冬の雪玉のよう。

穏やかな一面。
この部屋に眠っている人が2人。飼い猫一匹。
両手を下ろし、気がゆるんで小さく笑ってしまった。
猫の寝顔、子供の寝顔。そして夫の寝顔の順に見つめる。
寝ている時の表情は人それぞれ。
それなのに、どの顏も愛らしく感じられてしかたない。
声をかみ殺して幸せを感じつつ笑っていると馴染みある声が聞こえた。

「そんな風に愛らしく笑っていると、いけない狼に襲われるよ?奥方様」

聞こえた方向をみていると、寝ているはずの熊野の頭領が妻を見ていた。
閉じられていた炎のように赤い瞳が開いている。
それを頭で理解する前に男は彼女に顔を近づけ

唇を奪った。

次の瞬間には顔を離して「ごちそうさま」と意地悪く笑う。上唇と下唇をペロッと舐めとる様はどこか小悪魔めいている。結婚して数年経つのにこういう突発的なことには慣れず、女は茹で蛸のように顔面を赤くさせた。部屋の温度が一気に上がった気がする。

「おはよう」と言うべきか「お帰りなさい」というべきか。はたまた突然のロ付けに怒るべきか、本当にお昼寝していたのか狸寝入りをしていたのか、ということを問うべきか。
女の頭の中でさまざまな考えが入り乱れる。

「仕事合間をぬって会いに来たのに、『お帰り』の言葉もなしかい?オレの妹の君は冷たいな。オレ達の間には可愛い子供も産まれているのに」
「あ、ちがっ……お帰りなさい」
さも悲しそうに、さびしそうに言う旦那に慌てていつもの言葉を言う。途端、「ただいま」と先程とは違う、優しい笑みで今度は妻の頬に軽くロ付けた。
夫からのロ付けに、赤面しながらも嬉しそうに彼女は笑う。


夫婦だけの一時。
優しい時間が流れた。













今度こそ終わりです。本当に。
本当は、ヒノエに不意打ちの口づけをさせたくて書き始めたものなのです。なのですが、まさか書きたい場面がこんな後になるとは思いませんでした^^;
気付いたら三話分になってしまいましたが、お付き合い下さり、有難うございます!!
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