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好きなものをつらつらと書き綴っています。 書人:蓮野 藍         三国恋戦記の孟徳に夢中。  ボカロ(心響)SSも始めました。
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再度突発小説更新です。

今度のもヒノエ関連で、先日更新したヒノエ家族連載(勝手に命名)
ヒノエ家族SS(←クリックでその記事にとべます。)
そしてその続編
ヒノエ家族SS 続編(←クリックでその記事にとべます。)
そのオマケ
ヒノエ家族SS 完結(←クリックでその記事にとべます。)

の、数年先の話です。
説明が長くてすみません^^;

今まで更新した突発小説の中で、一番長い話になってます。


それでも構わない方、どうぞ↓に進んで下さい。

拍手[2回]


深緑の樹海。風は吹いていないのに、ところどころで枝が揺れ、葉も一緒になってざわめいた。
不自然に動く枝は一ヶ所だけではなく、移動していくのだ。一般の人なら不気味に思うに違いない。
怪奇現象だと、神か悪の仕業だと言う人もいるかもしれないが、そうではない。
動体視カがいい人ならば、そこにチラッと鮮やかな赤が見え隠れしているのに気付くだろう。
その赤こそが怪奇現象の原因であり犯人。
といっても自分の行動が怪奇現象を起こしているとは気付いていない、罪のない子供なのだ。



原因たる子供はこの地、熊野を統べる王、藤原湛増の子供。長子だった。木の枝から隣に生えている木の枝へと、ヒョイヒョイと飛び移っていく。
枝から次の枝へ、その枝からまた次の枝へと移動していく様はまさに猿の如く。
足の脚力を使って跳び渡り、枝からぶら下がった状態で、自分の身体を振り子のように揺らしてから移動したり。
危なげなく動き、器用に子供は自身を運んでいた。
子供は10歳前後であり、癖のあるふわふわした赤い髪が第一に目をひくだろう。
これは父親譲りのものだが、本人としては母のようにサラサラした真っ直ぐな髪になりたかったと思っている。
そんな思いを持つ子だが、勿論無意味にこうしているわけではない。
今は休憩中の父と競走している真っ最中なのだ。
同じ出発地から同じ目的地まで、どちらがはやく着くか競うだけのもの。
大人と子供では体の大きさからいって違う。ゆえに先に子が先に出発し、しばらくしてから父が出発するという条件がある。
いくら自分にとって有利な条件があるからといって油断できないと子供は思った。
自分が持つ父はこの熊野を統べる頭領であり、まず一筋縄ではいかないくせ者。らしい。とりあえず一般家庭にいる父親とは違う。
影で行動する烏のように動きが俊敏で、影遊びで父の影を踏ませてもらったことなど一度もない。(日向ぼっこ中の飼い猫のしろの影なら踏み放題なのに!)
それに今回の駆けっこで、一つの約束をしてもらった。
そのためにも負けるにはいかない。
決意を改めてかため、子供特有のクリッとした大きめの瞳は前を見つめる。目的地までもう少し。
荒くなっている呼吸を必死に宥め、前へ前へと進む。
樹海の先にある光を目に、そこへと急いだ。

そして光は徐々に大きく、広くなり、あまりの眩しさに目が痛くなる。
それでも目を細めることで光の先にある光景を判断しようとした。

赤い少年が目にしたのは、まず大きさな屋敷。そして屋敷の庭に立っている一人の女性。その後ろで控えている数人の女性。つまり女房だろう。
女房の主らしき人は腰にまで届く長い髪を流れるままに背中に流している。濃い桃色の髪をしたその人は白い布で包まれた何かを腕に抱いていた。
白い包みに女の視線が注がれ、それをあやすように優しく揺らしている。抱かれているのが赤子だとみてとれた。

それだけで十分だった。
それだけでその女性が、その人が誰なのかわかる。

子供は顔を輝かせ、声を張り上げた。

「母上!」


速度をあげ、一刻もはやくたどり着こうと急ぐ。
木の上から地上に飛び降りて着地する際、少しよろめいてしまう。だがそれを気にすることなく走り、その人のもとへ駆け寄った。声に気付き、暖かい視線を向けてくれる。
それだけでもとても嬉しくて、減速させることなく、そのまま女性に抱きついた。
その人がはいていた袴が音をたて、しわをつくる。後に続くようにふわっと母の香りが広がり、鼻をくすぐる。
「お帰りなさい、怪我はない?」
頭上から聞こえてくる優しい声。
「ただいま母上、怪我は大丈夫だよ!」
抱きついたまま見上げ、キョロキョロと辺りを見渡した。

自分と同じ赤い人がいない。

「母上、もしかして父上はまだ……?」着いていないのだろうか。

目的地である母のところに自分は着いた。
父がまだ着いていないとしたら、それはすなわち勝利を意味する。
走ったことによる胸の高鳴りとは違う、別の意味での胸の高鳴りがうるさい。
宥めようとしながら目的地の母を再度見上げれば
微笑んでいた母は更に笑みを深め、首を縦に振った。

「まだ着いていないわ、あなたが一番よ」
「オレの負けだな、今回は」

背後から声が届いた。
ハッと子が振り返る。赤き熊野頭領がそこに悠然として立っていた。

「父上!」
「お帰りなさい。てっきり本気を出してこの子を追い抜くと思ってた」

大声をあげる息子に、朗らかに笑って帰宅した夫を出迎える妻。背後で女房逹が一斉に頭を下げる。
ゆったりとした歩調で歩み寄り、「ただいま」と永遠の花嫁に笑いかける。彼女の腕に抱かれた赤子を受け取りながら「まさか」と言った。

「オレが子供相手に本気を出すわけないだろ?」
なあ?と腕に抱きあげた赤子に笑いかける。一見穏やかな光景を見ながら、頭領を影から守る役目にある烏逹は思わず身を隠している木の上から仲間 と目を合わせた。だがそれは一瞬のこと。仲間の顔を見て我に返り、次の瞬間には自分の仕事を果たすべく、辺りに気を配る。


烏達は知っていた。
50数えてから出発した頭領が最初こそはゆっくりと、それはゆっくりと時間をかけて移動していたのを。だが途中で主は何を思ったのか、やんわりと速度を上げてついには全速力。本日の護衛の役だった烏逹もおのずと全速力となり、せめて視界から主を見失わないようにしていたら今度は急低速し始めて立ち止まる赤き頭領。
それにあわせて護衛も必然的に止まらなければならないことに。どうしたのかと主らしからぬ行動に不思議に思っていたら、男は再び移動を始めた。先ほどよりもゆっくりと時間をかけて。そしてまた加速からの急停止が何回か繰り返され、烏達を困惑させた。
いつもの主人ならば常に冷静で的確な、無駄のない判断を下し、行動していく。その鮮やかさを何に例えられよう。熊野における孤高の存在。これが我らの頭なのだと思い知る度に誇りを感じ、自然と任務にカが入る。そして主君の期待に応えようと日々頑張れるのだ。

それなのに今日の頭領はどうだろうか。
熊野本宮から熊野別当邸(厳密にいえば、そこの別当の奥方)までの頭領と、その長男との駆けっこ。親と子の、何気ない一幕のはずなのに、なぜこうなるのだろう。
ふと、ここまできて烏は原因が何なのかわかった。
奥方の存在があったからだ。と。

今は熊野別当の正室として落ち着いている女性。彼女は伝説だと思っていた龍神の神子であり、源平の乱世に現れて源氏に勝利をもたらした戦姫。偶然なのか必然なのか、龍神の神子との縁を熊野頭領はもった。そして頭領が口説きに口説いて(少なくとも烏逹はそうだと思っている)神子を天上に帰らせることなく、自分の妻にと請うた。
それが今、主と会話している女性。
夢物話であるような話だが、現実の話。
それゆえなのか、頭領は奥方を家宝のようにそれはそれは大事にし、慈しんでいる。それを主のそばで、間近でみているからこそわかる話。
大切すぎるゆえに奥方のことが絡むと人が変わったように心が狭くなるのも事実の話。

例え相手が嫡男といえど、男は男。
愛している嫁が夫である自分以外の男と会うのは嫌なもの。
熊野の男は女性にとことん優しく甘いが、同性である野郎等には仲間意識はあれど、仕事以外では容赦ないのだ。
あれは頭領の男としての意志と、父親としての意志が入り乱れていたからの突発的な行動だったに違いない。護衛の烏はそういう結論に至った。そして主に誓う。

頭領、安心して下さい。このこと、誰にも話しません。
主の秘密は我らの秘密です。


この場にいる烏達の心が一つになった瞬間。彼等の主君に対する忠誠心の高さを知ることが出来る一面だった。

閑話休題。


頭領の護衛が主の秘密を胸の内にしまうことを決意しているのをよそに、熊野の次期頭領と目されている子供が声をあげた。

「父上、父上!今日は父上が負けなんだから、約束忘れないでよ!?」

親を見上げる視線は真剣そのもの。嘘偽りを一切許さないといわんばかりの瞳に現・熊野別当は小さく笑った。

「わかってる。約束通り、今度の仕事の時はお前を船に乗せてやるさ」

次の瞬間、子の大きな瞳を更に見開かせ両手をあげた。

「やっったっ!!船に乗れる!」
「良かったね。仕事中、人の邪魔はダメよ?」


息子の念願だった海賊船の乗船。まだ子供だから、危ないからと許してもらえなかった願い。それがようやく、父のロから許しの言葉が出た。
無邪気に喜びを顔に出す息子。それを母親は穏やかに見つめながらも注意しておく。彼は満面の笑みで頷いた。

「はい、母上!」
「まったく、母親には素直に返事しやがって」
まるで自分には素直ではない、とでもいいたげな発言。妻は首をひねった。
確かに昔のように“とうさま”“かあさま”と呼ばなくなった。だが

「この子は昔から素直よ?」
「いいや、最近オレに対して生意気になるようになってきた」
「そんなことない」

なにやら口論になりそうな雰囲気。そこを絶妙な間合いで子供がロをはさんできた。息子は父親の裾をひっぱり、見上げる。

「父上、次に船を出すのはいつ??」
「二ヶ月後」
「っ!?」

父の言葉に赤き子は大きく目を見開かせてかたまってしまう。石化したまま実父を見上げる瞳が潤むのを熊野の王はみてとれた。だが子供は泣き出さず我慢している。
子供ながらに自分は男だと律しているのだろう。
産まれて半年も経っていないもう一人の子供を腕にあやしながら男は言葉を続けた。

「嘘だ。次の船は十日後」

自分似の子の目をしっかり見つめる。

「それまでにもっと足腰を鍛えておけ。海は穏やかな顔をみせるが、荒ぶる顔もみせる。どんな波にも動じない身体でないと海の男にはなれないからな」

海の男になれない。
この言葉が子供の心に触れた。
熊野の民を守り、まとめるのが父の仕事。
その背に背負っているものはとても大きく、重い。
いつかその背に背負うものを自分も背負うことになるだろうことをこの子供はわかっている。将来父と同じものを肩に乗せて熊野の民を導いていくのだ。
そう思うと身に力が入る。
将来の為の身体づくり。これが第一歩。
子は力強く頷いた。

「はいっ!父上!!」

子供の瞳にはキラキラと希望が宿っている。
息子のいい兆候に男はニヤリと笑った。

「いい返事だ」

片手で赤子を抱きながら、もう片方の腕で息子の頭をかきなでる。
我が子の成長が待ち遠しい。

ある晴れた五月の日。
さわさわと緑がないた。















ようやく終わりです
ヒノエが大人げないものを書きたい。その理由で書き始めたのですが、長い長い^^;
書きたい場面が一向にこなくて、大丈夫??私。と思ってしまった作品でもあります。
ヒノエの大人げない行動。さらっと嫁息子に嘘をついてますが、自分が嘘をついてもそれは烏はしゃべらない。誰にも口に言わないとわかっているので、こうもさらっと嘘をついているのです。確信犯なヒノエ。どこぞの歌の歌詞の変え歌で「イケナイ頭領~♪」というのがふと頭に浮かびました。

この作品に赤子が出てきますが、長男と赤子の間にも一人子供がいます。が、今回はお昼寝タイム!!ということで登場させてません。
史実の湛増、少なくとも5人の息子がいたみたいで驚きました。子沢山湛増……。

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